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4月中旬、イランの攻撃を受けたイスラエルの防空システムが働き、効果的に被害を防いだ。一連の事態が日米防衛協力に投げかける意味について、エマニュエル駐日米大使がJAPAN Forwardに寄稿した。全文は次の通り。
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イスラエルは先月、イランによる300発超のミサイルと攻撃用ドローン(無人機)の集中砲火から自国を成功裏に防衛した。単に幸運だったからではない。長年にわたる計画と技術の向上が結実し、国の現実的な想定よりも多くの国民の命を救ったのだ。
評論家は当然ながら、アイアンドームやダビデスリングなど、イスラエルの高度防空ネットワークのさまざまな層が絶大な効果を発揮したことに注目した。しかし、それだけでは4月13日夜に起きたことの全体像を捉えていない。そこから得た多くの教訓は、日米の安全保障体制に生かすことができる。
バイデン米大統領と岸田文雄首相が先月の首脳会談で合意したように、インド太平洋での統合防空ミサイル防衛(IAMD)を実現するには、次世代技術開発を早め、将来のミサイルとドローンの脅威に備える必要がある。
米国と日本は、極超音速ミサイルの脅威に対抗するため、滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)の開発を進める。われわれは対ドローン技術を探求しているが、その開発に力を入れなければならない。ウクライナや中東で日々、目にするように、攻撃用ドローンは低価格化が進み、破壊力と正確性が増してきている。米国とイスラエルが、高エネルギーレーザーを使用した防衛システム「アイアンビーム」で連携しているのはこれが理由だ。コストは通常の迎撃機のわずか数分の一で、費用対効果を劇的に改善する。
イスラエルは、自前の多層防衛「道具箱」のおかげで、イランやその侵略者仲間が先月発射したあらゆる種類の飛翔体(ひしょうたい)に対応できた。防衛システムを成す各層が、ドローン、ロケット、巡航ミサイル、弾道ミサイルといった空からの特定脅威に対抗できるよう設計されている。
訓練も重要だ。米国とイスラエルは2001年から半年ごとに共同演習を行い、まさに先月のような種類の攻撃に備えている。共同計画と実践で相互運用性が強化され、防衛戦略が磨かれる。
その深い協力は、同盟国と地域パートナーにまで広がる。米国は長年にわたり中東地域で戦略的同盟関係を築いてきた。その例が、中東防空同盟(MEAD)の創設や、米欧州軍から中央軍へのイスラエル管轄の移行だ。
これは日米安全保障にとってどのような意味を持つのだろうか。
自衛隊の統合作戦司令部の新設計画、そして在日米軍の司令体制の再編が実現すれば、インド太平洋に統合防空ミサイル防衛ネットワークを構築する、同じような土台が提供されることになる。この変化が意味するのは、計画とリアルタイム対応力の向上だ。
今年に入り、日米そして域内同盟国の間で防衛演習が複数回実施されており、多くが史上初の試みだ。この動向をさらに加速し、範囲を広める必要がある。域内全体で脅威を察知し、効果的な対応で連携を可能とする互換性のある仕組みが必要なのはもちろんだが、それだけではない。定期的な訓練であらゆるシナリオに備えることも必要だ。
進展がみられる分野もある。強化された日米同盟はインド太平洋における格子状の戦略的パートナーシップの中核にある。そして今、域内では新たなレベルで連携が生まれている。その特徴的な例が、3カ国間パートナーシップの台頭や再活性化した(日米豪印の)クアッド、(米英豪の)AUKUS(オーカス)だ。
イスラエルが確立した水準の信頼できる域内抑止力は堅固なミサイル防衛に加え、スタンドオフ攻撃能力を必要とする。米国から巡航ミサイル「トマホーク」最大400発を購入する日本の決定は、大きな転換点となった。
挑発的な中国が近隣諸国を脅かし、予測不可能な北朝鮮が日本周辺海域で弾道ミサイルの発射実験を繰り返し行う。そのような中、4月13日の出来事を教訓とし、集団的抑止力の信頼性を高めていくことが必要不可欠だ。われわれは域内の安全保障を強化する重要な措置を講じてきた。その一方で、先般のイスラエルの経験は、その取り組みがまだ道半ばだと教えてくれたのだ。
筆者:ラーム・エマニュエル(駐日米大使)